FIKA(フィーカ)とは、日本でいう10時や3時の「おやつの時間」のような、スウェーデンの伝統的な習慣です。
仕事中のコーヒーブレイクとして同僚とおしゃべりしたり、休みの日に外でちょっとお茶しよう、なんていうのもスウェーデンのFIKA文化なのだそうです。
グニラさんとのFIKAのおともは、手作りの美味しいお菓子。
コーヒーのおかわりもすすみ、時間が穏やかに流れます。
グニラさんのご自宅は愛着のある北欧のものたちに囲まれて、あれにもこれにも胸がときめいてしまう。その中にはお子様がまだ小さい頃に一緒に作った飾りものや、壁に掛かったたくさんの家族写真(ご主人はフォトグラファーなのです)も混じり、肩肘張らないナチュラルな心地よさが満ちています。
日々の暮らしの楽しさを感じられる素敵なおうちの空間でゆったりと過ごすFIKAの時間。
グニラさんに教わる、北欧のこと、暮らしのこと、ものやインテリアの色々なこと。
自分らしい暮らしのためのヒントや学びを、ゆるり綴っていこうと思います。
*FIKAは日本語では"フィーカ"と表されることが多いですが、スウェーデン語の発音は"フィーキャ"の響きに近いです。
セムラを食べながらイースターについて教わりました
遅く咲いた梅も、もう満開。
3月になったばかりの暖かい日に、グニラさんのお宅へおじゃましました。
今日のFIKAのおともはスウェーデンの伝統菓子『セムラ』です。
ダイニングに続く隣りのキッチンでは、グニラさんが手際よくセムラを作ってくれています。
丸いパンの上の部分を薄く切り取ると、
「ここにアーモンドペーストを入れますね。」
と、茶色いバターのかたまりのようなものを小さく切ってパンの真ん中に差しこんでいきます。
「これはね、卵白とお砂糖とアーモンドだけでできているのだけど、日本ではほとんど売っているのを見ないわね。」
確かに日本ではあまり馴染みがない気がします。
初めて見ました、と答えると、
「そう?それじゃあ良かったら食べてみて。」
と、味見用に少し切り分けてくれました。
思ったよりも甘さ控えめでなめらかな舌触り。
アーモンドの風味がとても豊かです。
「甘くないでしょう?だから生クリームはたっぷりにしちゃうのよ!」
いたずらっ子のように微笑むグニラさん。
「もうちょっと?もうちょっと欲しいでしょう?」
と張り切ってたっぷりと生クリームを絞ってくれるグニラさんに、
「わあ、もういいです~!」なんて、幸せなやり取り。
最後にさっき切り取ったパンの蓋の部分を帽子のようにちょこんと載せて。
仕上げに粉砂糖を振って完成です!
セムラとともに席につくと、ちょうど視線の先に、枝に刺さったビビッドなイエローとパープルの羽根飾り。
「いま出しているイースターの飾りはまだこれだけなのよ。」
そういえば、セムラもイースターの時期に食べるもの、ということで、
私たちはちょうどイースターの直前にお邪魔したようです。
コーヒーを淹れていただき、FIKAの時間の始まりです。
今日のFIKAのおとも、セムラをさっそくいただきます。
セムラは見た目は完全におやつだけれど、パンも生クリームも甘さはかなり控えめ。
朝起きたてでもペロッといただけそうなほどに優しい。
パンはやわらかいのだけれど、ふわふわという感じではない密度のしっかりした生地です。
スウェーデンでは温めたミルクにひたしてシナモンを振って食べる人も多いとのことで、ひたした時にやわやわになりすぎないパンの固さがちょうどいいのかもしれません。
食べごたえもおいしさも100点満点!
飾り付けを楽しむのがスウェーデンのイースター
セムラを食べ終わると、イースターに向けこれから飾りつける予定の小物たちを広げて、グニラさんがスウェーデンのイースターについて色々と教えてくれました。
そもそもイースターについてあまりよくわかっていない私たちのために、グニラさんは「スウェーデンの祝祭日と伝統行事」について書かれた日本語のパンフレットを持ってきてくれました。
「イースター」とはキリストの復活祭のこと。
処刑されたキリストが予言通り復活したことを祝う、キリスト教圏での行事です。
ヨーロッパの多くの国では、イースター当日は祝日だそう。
日付は「春分の日以降の最初の満月の次に迎えた日曜日」とされているため、毎年異なるようです。
昔はイースターまでの40日間は断食をしたという時代があり、断食に入る前にはご馳走を食べるという風習があったそうです。
その時のご馳走の中に、セムラが登場します。
本場スウェーデンでは、今回私たちが出していただいたものよりもずっと大きなサイズでセムラを作ることもあるそうで、その理由は「しばらく食べられないから!」だったのかもしれませんね。
イースターといえば、卵やウサギやニワトリ、などのイメージがあります。
諸説あるようですが、生命誕生の象徴といわれる動物がモチーフになっているようです。
グニラさんの小物たちは日本で買ったものもあるようですが、ほとんどがスウェーデンから持ってきてずっと大切に使っているもの。
かなり小さいものもたくさんあり、にぎやかで、どれもこれも本当に可愛らしいです。
家族から受け継いだものを大切に使う
スウェーデンの家族から受け継いできたという、あざやかな黄色い水仙の刺繍がほどこされたテーブルランナーを広げて見せてくれるグニラさん。
「この花はね、スウェーデンではポスクリリアと呼ぶのよ。」
ポスクリリアは日本語に直訳すると、「復活祭の百合」となるそうで、水仙だけれど、百合という呼び名がついているのですね。
日本でも春先に咲くこの水仙の花は、スウェーデンではイースターには欠かせない、象徴の花だそうです。
日本人の私は春の花といえば、満開の桜の優しいピンク色を思い浮かべます。
スウェーデンの人々は、黄色の水仙が咲き乱れる野の景色を想像するのでしょうか。
「これはちょっと穴が空いちゃっているんだけど、そーっと使っているのよ。もう100年以上も前のものなの。」
そう言って広げてくれたこちらの一枚は、透けるほどに薄く繊細な布地に、細かなステッチの刺繍がとっても素敵です。
大切にずっと引き継がれ使われているこのテーブルセンターには、スウェーデン語でハッピーイースターと書かれた文字の刺繍も入っています。
グニラさんのイースターコレクションは、ほとんどが卵とニワトリ。
ウサギもまたイースターの象徴として有名ですが、スウェーデンでは卵とニワトリのモチーフがとにかく多いわね、とのこと。
余談ですが、イースターの時期に訪れたことのあるアメリカやドイツではウサギのモチーフをよく見かけたように思います。
調べたところ、イースターバニーが現れたのはドイツが起源と考えられている、という資料を発見しました。
国や地域や宗派によって、イースターの雰囲気は少しずつ異なるのかもしれませんね。
小さな魔女に出会えるスウェーデンのイースター
グニラさんに聞かせていただいたスウェーデンのイースターのお話の中で、特に面白かったのは、魔女のお話。
キリストが生き返るイースター前日の土曜日には魔女たちの魔法が特に強くなり、ほうきに乗って飛んでくるとされていたそうで、イースターの期間には魔法の威力が増した魔女たちが町を徘徊し、魔法をかけてくると信じられてきたのだそう。
この怖い魔女のエピソードは、子どもたちにとってはイースターの楽しいイベントの一つになっているのだそうで、
「子どもたちはほうきを持ってね、魔女に仮装して近所の家のチャイムを押してお菓子をもらうの。ちょうどハロウィンのトリックオアトリートみたいな感じね。それと、魔女は火を怖がるからということで、近所のあちこちで焚き火をするのよ。まだ春先でちょっと寒いから、あったかくて子どもはすごく楽しいのよ。」
と、なつかしい思い出話をするように教えてくれるグニラさん。
そうして土曜日が終わり、イースター当日の日曜日の朝になります。
「日曜日はお祝いで卵をたくさん食べるのね。うちはニワトリを飼っていたから卵がいっぱいあってね。兄弟たちはすごい量を食べていたけれど、私は5つしか食べられなかったわ。」
卵を頬張る子どものグニラさんを想像すると、おもわず笑みがこぼれてしまいます。
日本の文化の中ではまだ馴染みが薄く、いままであまり知る機会のなかったイースターのこと。
グニラさんのおいしいセムラとともにイースターカラーに満ちたFIKAを過ごさせていただき、スウェーデンの家庭でのイースターの様子を少しだけ思い浮かべることができたような気がします。
宗教的行事ですが、構えすぎずに春を楽しむという観点で、日本の暮らしの中にも取り入れることができそうですね。
スウェーデンの伝統菓子セムラの作り方
グニラさんから教えてもらった今回のFIKAのおとも「セムラ」のレシピをご紹介。
イースターのセムラの材料
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イースターのセムラの作り方
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